ライブラリの概要
TWELITE Wings API (以降 MWings) は、Python スクリプトから TWELITE を扱うためのライブラリです。
機能
ホストへ接続された TWELITE の親機を通じて、TWELITE の子機と通信できます。
- 受信データを解釈して、辞書や JSON のほか pandas データフレームへ変換※
- 辞書から生成したコマンドを親機へ送信
※ Lite版は pandas に非対応
Raspberry Pi には、通常版ではなくLite版を推奨します
- モジュール名は
mwings
ではなく、mwingslite
です - pandas や numpy, pyarrow 等への依存関係がありません
- Raspberry Pi では、これらをPyPIから導入できないことがあります
- なお pandas がないとき、データフレームを出力する関数
to_df()
は例外を発します
- 通常版と同じく、辞書やJSON文字列の出力には対応しています
- 要求する Python のバージョンを 3.11 以降へ落としています(通常版は 3.12 以降)
用途例
例えば、次のようなシステムを実現できます。
- MONOSTICK で受信した温湿度データを JSON としてクラウドサーバへ送信
- MONOSTICK で受信した加速度データを CSV または Excel ファイルへ記録※
- PC から MONOSTICK を通じて TWELITE DIP へ接続された LED を制御
※ Lite版は、直接 CSV や Excel ファイルを出力できません
特徴
モダン Python の モダン Python による モダン Python のためのモジュールです。
※ 例外あり。詳細は後述
インストール
PyPI から入手できます。
pip の場合
poetry の場合
最も簡単なサンプルスクリプト
わずか6行で超簡単!標準アプリ(App_Twelite)の受信データを JSON 形式で出力できます。
Lite版の場合
import mwings as mw
をimport mwingslite as mw
とします。環境整備と動作確認
用意するもの
- PC
- MONOSTICK(親機・中継機アプリ/デフォルト設定)
- TWELITE DIP(超簡単!標準アプリ/デフォルト設定)
- スイッチなどのペリフェラルを接続しておく(例:DI1 ポートと GND 間にタクトスイッチを接続)
環境整備
以下は一例です。Python 3.12 以降(Lite版は3.11以降)が使える環境であれば問題ありません。
好みの環境があれば、読み飛ばしてください。
外部ツールの使用において、当社は一切の責任を負いません。
また、外部ツールに関する質問はご遠慮ください。
pyenv の導入
処理系のバージョンを管理するために、pyenv を導入します。
Linux
事前に開発ツールを導入しておかなくてはならない場合があります
macOS
必要に応じて Homebrew を導入してください
事前に開発ツールを導入しておかなくてはならない場合があります
Debian系
Windows
Windows 向けの pyenv はありません。代わりに pyenv-win を使用します。
pyenv / pyenv-win による Python の導入
MWings が対応する Python 3.12 以降(Lite版は3.11以降)の処理系を導入します。
導入できるバージョンの一覧を取得するには、下記を実行します。
ここでは例として、Python 3.12.4 を導入し、システム全体へ適用します。
導入済みバージョンの一覧を取得するには、下記を実行してください。
pipx の導入
poetry のようなコマンドラインツールを隔離された環境で管理するために、pipx を導入します。
Linux
Debian系
pipから(Raspberry Piはこちらを推奨)
Fedora系
macOS
Windows
必要に応じて Scoop を導入してください
poetry の導入
プロジェクトに対する処理系のバージョンやモジュールの依存関係を Node.js のような形で管理するために、poetry を導入します。
エラーを吐く場合
TypeError: __init__() got an unexpected keyword argument 'encoding'
といったエラーを吐く場合は、pipxをパッケージマネージャではなくpipから導入してみてください。
プロジェクトの作成
ここでは、プロジェクト名を mwtest
とします。
プロジェクトを作成するディレクトリへ移動し、下記を実行してください。
mwtest
ディレクトリを生成します。
プロジェクトの設定
プロジェクトへ移動し、先ほど pyenv で導入した 処理系のバージョンを紐付けます。
MWings を導入します。
Linuxにて応答しない場合
次の環境変数の設定をお試しください。
最も簡単なサンプルスクリプトの作成
まずは、先ほど紹介したスクリプト を動かしてみましょう。
Lite版の場合
Raspberry Pi のserial0
を使う例を次に示します。
なお pyserial の制約により、
mw.utils.ask_user_for_port()
は/dev/ttyS0
を検知できません。
上記の内容で poetry が生成した __init__.py
と同じ階層に simple.py
を作成します。
最も簡単なサンプルスクリプトの実行
MONOSTICK を接続し、実行します。
複数のシリアルポートが存在する場合は、シリアルポートを選択してください。
JSON 文字列の出力を得ることができたら成功です。実際の出力例を下記に示します。
JSON 文字列の内容
mwings.parsers.app_twelite.ParsedPacket
キー | 値 |
---|---|
time_parsed | 受信時刻(デフォルトはUTC, ISO8601形式) |
packet_type | パケット種別 |
sequence_number | シーケンス番号(App_Tweliteの場合は時間) |
source_serial_id | 送信元シリアルID |
source_logical_id | 送信元論理デバイスID |
lqi | 電波通信品質(8bit) |
supply_voltage | 電源電圧(mV) |
destination_logical_id | 送信先論理デバイスID |
relay_count | 中継回数 |
periodic | 定期送信パケットか否か |
di_changed | 各デジタルインタフェースの入力変化の有無 |
di_state | 各デジタルインタフェースの入力状態 |
ai_voltage | 各アナログインタフェースの入力電圧 |
mwings_implementation | MWings の実装(将来のための情報) |
mwings_version | MWings のバージョン |
hostname | 受信したホストの名称 |
system_type | 受信したホストのシステムの種別 |
実用的なスクリプトの作成
simple.py
はあくまでも説明用のサンプルです。実用的なスクリプトではありません。
なぜなら、twelite.start()
がデータを受信するためのスレッドを作成するものの、これを終了する手段を用意していないからです。非常に読みづらいスクリプトでもあります。
次はより実用的なスクリプトを作成しましょう。それを実行したのち、内容を解説します。
今回は、下記の3点を条件とします。
これらを適用した例を下記に示します。
Lite版の場合
import mwings as mw
をimport mwingslite as mw
としてください。上記を practical.py
として保存してください。
実用的なスクリプトの実行
下記のコマンドを実行すると、simple.py
と同じようにして JSON 形式の出力を得ることができます。
ただし、今回はエラーを発生させずに Ctrl+C
で終了できるほか、time_parsed
は日本標準時になっているものと思います。
実用的なスクリプトの解説
コードの解説
practical.py
を解説します。
import
文
practical.py
では、2つのモジュールを import
しています。
zoneinfo.ZoneInfo
受信時刻のタイムゾーンを指定するために使用します。mwings
MWings ライブラリです。mw
に短縮して呼び出せるようにしています。Lite版の場合はmwingslite
です。
オブジェクトの作成
mw.Twelite
オブジェクトは、ホストへ接続された TWELITE の親機へアクセスするためのインタフェースとなります。
mw.utils.ask_user_for_port()
関数は、ホストで利用できるシリアルポートの一覧を取得し、ユーザが選択したポートのファイルディスクリプタのパスや COM ポート名を返します。
明示的にシリアルポートを指定する方法
mw.Twelite
のコンストラクタへ、直接ファイルディスクリプタのパスや COM ポート名を指定します。
シリアルポートを使用しない場合
ログファイルを解釈するような用途では、None
を指定します。
タイムゾーンの設定
デフォルトでは、データの受信時刻を UTC として扱います。
practical.py
では、これを JST としています。
ZoneInfo
には IANA のタイムゾーン識別子を渡してください。
受信ハンドラの登録
TWELITE の子機から送られるデータを処理するには、受信ハンドラを登録します。ここでは、超簡単!標準アプリ向けの受信ハンドラ内で受信したデータを JSON 形式に変換し、それを出力しています。
受信ハンドラは、任意の関数へ twelite.on()
デコレータ ? を適用することで登録できます。
mw.Twelite
オブジェクトの初期化後に同一のスコープへ定義する必要があります( practical.py
では main()
関数内)。受信ハンドラの定義箇所に制約を設けることで、グローバル空間の不要な汚染を避けるように誘導しています。受信ハンドラにおけるパケット種別の指定
受信ハンドラが受け取るデータの内容は、パケットの種別に応じて定義されたデータクラスに基づきます。
超簡単!標準アプリ
リモコンアプリ
アリア(通常)
キュー(通常)
キュー(動作パル・ムーブ/ダイス)
動作パル/キュー(動作パル・連続)
環境パル
開閉パル/アリア・キュー(開閉パル)
シリアル通信(書式A、簡易)
シリアル通信(書式A、拡張)
アクト
受信ハンドラが受け取るデータクラス ParsedPacket
は、JSON 形式の文字列へ変換する to_json()
、辞書へ変換する to_dict()
、pandas データフレームへ変換する to_df()
といったメソッドを備えています。
ここでは、to_json()
メソッドを使って JSON 形式の文字列へと変換しています。
オプション引数について
verbose
オプションを False
とした場合は system_type
などのシステム情報を出力しません。また、spread
オプションを True
とした場合は di_state
などの List-like な要素(mw.common.CrossSectional[T]
型)を個別に展開して出力します。ただし、加速度サンプルといった時系列データ(mw.common.TimeSeries[T]
型)は展開しません。
なお to_df()
に spread
オプションはありません。時系列でない List-like なデータは強制的に個別の列へ展開されるほか、時系列データは個別の行へ展開されます。
受信の開始と終了
mw.Twelite
は、threading.Thread
を継承しています
。practical.py
では、twelite.start()
が別のスレッドで受信処理を開始し、twelite.stop()
がそれを停止しています。
twelite.daemon
を True
へ設定すると、受信処理を担うサブスレッドは デーモン化 されます。デーモンでない生存中のスレッドがすべて終了すると、 Python プログラム全体も終了します。ここではメインスレッド内で twelite.join()
を繰り返し呼ぶことで、メインスレッドを待機させています。
threading.Thread
から継承したスレッド関連の機能については、Python 公式ドキュメント を参照してください。メインスレッドは Ctrl+C
の入力を検知すると except
節で twelite.stop()
を呼び出し、受信処理を停止させます。twelite.stop()
はサブスレッドが受信ハンドラの呼び出しを終えるまで待機します。
join()
に関する注意
次のように while
ループを使用しない場合、Windows において Ctrl+C
を受け付けないことがあります。
補足説明
PEP8 への対応
practical.py
や MWings のソースコードは、PEP8 に対応したコードフォーマッタ Black を使ってフォーマットされています。
正確には、完全に PEP8 へ準拠しているわけではありません
少なくとも2項目を違反しています。
- PEP8 では行の長さを最大79文字としています が、Black のデフォルトである最大88文字としています。コードを一行に収めるために変数名を縮めるなどして、品質が低下することを防ぐためです。参考:PyCon2015の講演
- PEP8 ではエンコーディング宣言を避けるべきとしています が、あえてエンコーディング宣言を行っています。日本語環境においては UTF-8 ではないファイルの混入する可能性が英語圏よりも高いほか、MWings はエンコーディング宣言を利用する Emacs を使って開発されているからです。なお、“should not have” のためか Black はこれを検知しません。
- PEP8には、この他にシーケンスの長さが0でないことを確認する際の
len()
を非推奨としているなど、その内容には議論の余地があります(PyCon JP 2024にてご教授いただいた James Powell 氏に感謝いたします)。
Black は一行の最大長を除き、いかなる設定も受け付けない頑固なフォーマッタですが、コーディング規約を策定・共有する手間を省くことができます。コーディングルールはしばしば物議を醸す議題ですが、そうした取るに足らない作業へ費やすリソースを有益な作業へ割り当てることこそが Python らしさの本質でしょう。
プロジェクトへ Black を追加するには、下記を実行します。
dev
グループを指定することで、開発時の依存関係であることを示しています。Node.js の devDependencies
と似ています。対象のファイルやディレクトリを指定して実行できます。
フォーマットせずに確認だけ行うこともできます。
型ヒントへの対応
practical.py
や MWings のソースコードは、型ヒント へ対応しています。
型ヒントとは
型ヒントは Python 3.5 で実装された機能です。動的型付けの Python における型アノテーションは実行時に意味を成しませんが、静的型チェッカによる検査はコードの品質と信頼性の向上に寄与します。
型ヒントに対応していないライブラリは、静的型チェッカのエラーを引き起こします。従来の パルスクリプト は未対応でした。
MWings ライブラリは、Python 公式の静的型チェッカである mypy を使用しています。
プロジェクトへ mypy を追加するには、下記を実行します。
こちらも Black と同様に、対象のファイルやディレクトリを指定して実行できます。
関連情報
実用的なスクリプトの応用
practical.py
をさらに発展させたスクリプトを公開しています。
mwings_python/examples at main
log_export.py
親機の出力を保存したテキストファイルを読み込み、解釈した結果を pandas データフレームへ保存し、最終的に CSV または Excel ファイルを出力します。Lite版は非対応。
コマンドラインツールとして利用できます
rx_export.py
接続された親機の出力を受け取り、解釈した結果を pandas データフレームへ保存し、最終的に CSV または Excel ファイルを出力します。Lite版は非対応。
- CSV ファイルを選択した場合、すべての結果を一つのファイルへ保存します。
- 代わりに Excel ファイルを選択した場合、パケットの種別ごとに別のシートへ保存します。
コマンドラインツールとして利用できます
rx_export.py
は受信したデータのすべてを一旦 pandas データフレームへ保存するため、長期間に渡る記録には適していません。しかし、Excel ファイルの出力に対応しています。rx_export_csv_durable.py
接続された親機の出力を受け取り、解釈した結果を送信元のシリアルIDごとに CSV ファイルへ追記していきます。Lite版は非対応。
コマンドラインツールとして利用できます
rx_export_csv_durable.py
はデータを受信するたびに CSV ファイルを開き、データを追記します。rx_export.py
と異なり Excel ファイルの出力を行えませんが、長期間に及ぶ記録に適しています。rx_print_df.py
接続された親機の出力を受け取り、単に解釈した結果を pandas データフレームへ変換し、文字列として出力します。Lite版は非対応。
rx_print_dict.py
接続された親機の出力を受け取り、単に解釈した結果を辞書へ変換して出力します。Lite版も対応。
rx_print_json.py
接続された親機の出力を受け取り、単に解釈した結果を JSON 文字列へ変換して出力します。Lite版も対応。
tx_binary_uart.py
接続されたシリアル通信アプリの親機を介して、TWELITE UART へバイナリデータ [0xBE, 0xEF]
を送ります。Lite版も対応。
tx_blink_dip_led.py
接続された親機・中継機アプリの親機を介して、TWELITE DIP の DO1 ポートに接続された LED を点滅させます。Lite版も対応。
tx_blink_pal_notice.py
接続された親機・中継機アプリの親機を介して、通知パルの LED を各色で点灯させます。Lite版も対応。